「こだわりが強い・発達特性があるかも?」と悩むあなたへ〜特性は変わるのか、親はどう接すればいいのか〜

体験談

不登校の親の保健室へようこそ。

この記事を開いてくださったあなたは、きっと今、お子さんの不登校や行き渋り、そしてお子さん自身の「頑固さ」や「こだわりの強さ」について、深く深く悩んでいらっしゃるのではないでしょうか。

朝、起きてこない子どもの部屋のドアの前で、胸が締め付けられるような思い動悸を感じる。
「どうしてうちの子は、みんなと同じように普通に学校に行けないのだろう」
「私の育て方がどこかで間違っていたのだろうか」
「このままずっと社会に出られず、部屋に引きこもったままになってしまうのではないか」

そんな終わりの見えない不安のトンネルの中で、出口を探して必死に手を伸ばしている、そんな親御さんの姿が目に浮かびます。

私も、あなたと全く同じように悩み、苦しみ、夜な夜なネットの情報を検索しては自分を責めてきた、一人の不登校児の親です。私の息子も不登校を経験しています。さらに息子は、「こだわりが非常に強い」「人とのコミュニケーションを極端に嫌がる」「納得しないと絶対に動かない」という強い特性を持っており、親としてどう関わればいいのか分からず、本当に途方に暮れる毎日を過ごしています。

今回は、私が専門家の方からいただいた本質的なアドバイスや、自分自身の経験、そして保健室に寄せられる多くの親御さんたちの事例を交えながら、「こだわりが強い子ども、発達特性(ASD傾向など)があるかもしれない子どもに、親はどうアドバイスし、どう接していけばいいのか」について、徹底的に掘り下げてお話ししていきたいと思います。

この記事が、今まさに暗闇の中で孤独を感じているあなたの心を、ほんの少しでもふっと軽くする温かいランプのようになれば幸いです。どうぞ、温かい飲み物でも飲みながら、肩の力を抜いて、最後までゆっくりと読んでみてください。


「思春期の不安定さ」と「発達特性」の境界線で悩む親たち

子どもが学校に行けなくなると、親は「なぜ行けなくなったのか」という原因を必死に探そうとします。いじめがあったのか、勉強についていけないのか、先生が怖いのか……。しかし、どれも決定的な理由ではないように思えるとき、多くの親御さんが直面するのが「これは思春期特有の反抗や不安定さなのか、それとも発達障害などの『特性』によるものなのか」という疑問です。

実際、不登校の子どもを持つ親御さんから「うちの子、こだわりが強くて、もしかしたら発達障害(ASDなど)かもしれないんです」というご相談を非常によく受けます。結論から言うと、「思春期の特性」と「発達特性」は、表面に現れる姿がかなり重なり合っています。そのため、専門家であっても、その場限りの様子だけで明確に線を引くことは非常に難しいのです。

まずは、よく言われるASD(自閉スペクトラム症)の「脳の情報処理の傾向(特性)」について、具体的に見ていきましょう。

ASD(自閉スペクトラム症)傾向に見られる主な特性

  • 空気を読むのがひどく疲れる: 周りの人が何を考えているのか、その場の「なんとなくの雰囲気」を察知するのが苦手で、常に頭をフル回転させて周囲を観察しているため、集団の中にいるだけで激しく疲弊します。
  • 雑談が苦手、意味のない会話をしたくない: 「今日暑いね」「そうだね」といった、目的のないコミュニケーションの必要性が理解できません。メリットや明確な目的がないと話したくないと感じることがあります。
  • 感覚過敏: 教室のざわざわした話し声、蛍光灯の眩しさ、教科書や机の匂い、給食の食感など、特定の刺激を「苦痛」として人一倍強く感じてしまいます。
  • 興味の偏りと異常な没頭: 自分の関心のある分野(ゲーム、アニメ、特定の学問、プログラミングなど)には寝食を忘れて集中しますが、興味のないことには1ミリもエネルギーを割くことができません。
  • 白黒思考(0か100か思考): 「少し遅刻したから、もう今日は1日中すべてが台無しだ」「一度失敗したから、自分はもう絶対にダメだ」というように、物事を極端に捉えてしまいがちです。
  • こだわりが強く、予定変更が苦手: 自分の中のルールやルーティン、予測していたスケジュールが崩れると、激しいパニックや強い拒絶反応を起こします。

どうでしょうか。「あ、うちの子のことかもしれない」と思う部分がいくつかあったのではないでしょうか。私の息子もまさにそうでした。「教室という空間にいるだけで頭が痛くなる」「中身のないおしゃべりをする同級生の気持ちが分からない」「人に何を言い返していいか分からなくてフリーズしてしまう」と、後になって語ってくれました。当時はそれが言えず、ただ「学校に行きたくない」と部屋にこもっていたのです。

親からすれば、こうした子どもの姿は「ただのワガママ」「怠けているだけ」「自分勝手な理屈をこねている」と見えてしまいがちです。「みんな我慢して学校に行っているのに、どうしてあなただけがそれができないの?」とイライラをぶつけてしまうこともあるかもしれません。

しかし、ここで知っておいていただきたいのは、思春期という時期そのものが、そもそも激しい心の混乱を伴うものだということです。
思春期の子どもは、自己否定感が強くなり、友人関係の構築に悩み、周囲の視線に過敏になり、将来への漠然とした不安を抱え、結果として引きこもりがちになることが「普通に」起こります。だからこそ、発達特性からくる行動なのか、思春期の葛藤からくる行動なのか、見分けがつかなくて当然なのです。

臨床の現場で医師や専門家がどこを見ているかというと、「幼少期(小学校低学年以前)から一貫してその特性があったかどうか」という点です。「小さい頃から集団行動が極端に苦手だったか」「強い偏食があったか」「独特なものに強いに興味を示していたか」「1人遊びを好んでいたか」など、過去の歴史を振り返ります。
もし、思春期になってから急にこれらの状態が現れたのであれば、それは特性そのものというよりも、環境の変化(中学校への進学など)についていけなくなったことによる「二次的な適応不全(強いストレス反応)」である可能性が高くなります。

ですが、不登校の親の保健室として、あなたに一番強くお伝えしたいのは、「我が子がASDかどうか」という診断名にこだわりすぎる必要はないということです。
診断名というのは、子どもを救うための「地図」でしかありません。大切なのは、病名をつけることではなく、「今、目の前の子どもがどれだけ苦しんでいて、何に困っているのか」を正確に見つめ、その苦しみを1つずつ紐解いていくことなのです。


「特性」は一生変わらないのか?親の絶望を希望に変える「適応」の話

「もしこの子に発達の特性があるのだとしたら、一生このまま変わらないのだろうか……」
「私の育て方や努力では、この子の生きづらさを治してあげることはできないのだろうか……」

子どもに特性があるかもしれないと気づいたとき、多くの親御さんがこのように絶望に似た気持ちを抱かれます。「未来が閉ざされてしまった」かのように感じてしまうのですね。

しかし、ここで明確にお伝えしたい事実があります。それは専門家の方々も口を揃えて言う、次のような現実です。

「ASDだから一生固定で何も変わらない」でもないし、
「親の育て方や本人の努力で100%綺麗に治る」でもない。
この「中間」にこそ、現実の希望があります。

先ほどもお話しした通り、発達特性というのは「脳の情報処理の傾向」です。生まれつきの特性ですから、例えば「左利きの人が、右利き中心の社会で暮らしている」ような状態です。左利きを無理やり右利きに矯正しようとすると、多大なストレスがかかり、心が壊れてしまいますよね。それと同じで、特性そのものを「根絶やしにする」「別人にする」ことはできませんし、その必要もありません。

ここで最も重要なパラダイムシフト(考え方の転換)は、「特性」と「困りごと」は別であるということです。

生まれ持った「特性」そのものは消えなくても、それによって生じる日常生活の「困りごと」や「生きづらさ」は、本人の成長や環境への適応によって、劇的に減らしていくことができるのです。

人間は、成長のプロセスにおいて、以下の4つの要素によって驚くほど変わっていきます。

  1. 多様な経験(成功体験だけでなく、失敗から学ぶことも含む)
  2. 認知の変化(物事の捉え方、考え方のクセの修正)
  3. 対人スキルの獲得(マニュアルや理屈としてのコミュニケーション学習)
  4. 深い自己理解(自分の取扱説明書を作ること)

特に、ASDなどの特性を持つ子どもたちは、感覚的・直感的に「空気を読んで周りに合わせる」ことは苦手ですが、その反面、「理屈で理解する」「構造化して学ぶ」ことが非常に得意な傾向にあります。
そのため、10代後半から大人になるにつれて、心理学の本、コミュニケーションの解説書、哲学書、あるいは自己分析のツールなどに触れたとき、「なるほど、社会や人間関係というのは、こういう仕組み(ルール)で動いていたのか!」と納得し、そこから驚くほど生きやすくなる人が本当に多いのです。

少し、私自身の話をさせてください。
実は私自身、大人になって振り返ると、非常に過集中になりやすかったり、物事へのこだわりが強かったり、大勢での雑談が苦手だったりと、かなりの特性を持っています。若い頃は、なぜ周りのように器用に立ち回れないのか分からず、何度も人間関係でつまずき、強い生きづらさを抱えて生きていました。
しかし、20代、30代と年齢を重ねる中で、社会経験を積み、たくさんの本を読み、試行錯誤を繰り返しながら、「自分はどういうときに疲れるのか」「どうすれば人と円滑に話せるのか」を徹底的に自己分析してきました。その結果、今では自分なりの「社会適応の型」を身につけ、仕事も人間関係もとても楽にこなせるようになっています。

この私が身につけた適応は、決して「自分を偽っているフェイク」ではありません。試行錯誤の末に獲得した、正真正銘、私自身の「成長」です。

もちろん、今でも「疲れると人と話すのがひどく億劫になる」「1人の時間が絶対に必要」「興味のあることには寝食を忘れて没頭してしまう」という“根っこ”の特性はそのまま残っています。私は別人の社交的な人間に生まれ変わったわけではありません。
変わったのは、特性そのものではなく、「社会の中で困る回数が圧倒的に減った」ということなのです。

あなたのお子さんも、これと全く同じ道を歩む可能性を十分に秘めています。今、学校という非常に狭く、同質性を求められる空間(右利き社会)の中で強くつまずき、傷ついているからといって、「この子の未来はずっと真っ暗だ」と絶望する必要は一切ありません。
子どもは時間をかけて、傷を癒やしながら、必ず「自分なりの取扱説明書」を作り上げ、自分に合った適応の仕方を学んでいくことができます。親がやるべきことは、子どもを無理に「普通」に変えようとすることではなく、その子が自分自身の取扱説明書を作るプロセスを、じっと見守り、応援することなのです。


こだわりが強い子どもへのアドバイス:陥りがちなNGと効果的なOK

「この子は本当は頭が良いし、能力も高い。いつか何かのきっかけで覚醒して、すごい力を発揮するんじゃないか」

こだわりが強く、自分の世界をしっかり持っている我が子を見て、親御さんがそんな期待を抱くのは、極めて自然なことです。実際に、特性のある子どもたちは、自分の興味のある分野にカチッとパズルのピースがハマったとき、常人離れした集中力や成果を叩き出すことがよくあります。

しかし、ここに親としての最大の難しさがあります。
特性を持つ子どもたち、特にこだわりが強く理屈っぽい子どもたちの多くは、「本人が100%納得しないと、絶対に動けない」という強力な性質を持っています。

そのため、親がどれだけ我が子の将来を思い、客観的に見て「100%正しいアドバイス」をしたとしても、本人の腑に落ちていなければ、それはアドバイスではなく「ただの騒音」や「自分を否定する攻撃」として受け取られてしまいます。最悪の場合、良かれと思った言葉が引きこもりを長期化させる逆効果になってしまうことすらあるのです。

では、具体的にどのような接し方を避ければよく、どのような接し方を心がければ子どもの心に届くのか、具体的な事例とともに対比してみていきましょう。

❌ やってしまいがちな「NGな接し方・アドバイス」

正論をぶつけて説得しようとする

  • NG例:「学校に行かないと、勉強が遅れて将来困るよ」「社会に出たら、嫌なことでも我慢してやらなきゃいけないんだよ」
  • なぜダメなのか: 子どもは、そんな正論は言われなくても頭では百も承知しています。分かっているけれど、脳と体がどうしても動かないから苦しんでいるのです。そこに正論を突きつけることは、「できないお前はダメな人間だ」と裁判のように断罪するのと同じになってしまいます。

将来の不安を煽って動かそうとする

  • NG例:「このまま部屋に引きこもっていたら、将来ニートになっちゃうよ」「大人になってからどうやって生きていくつもりなの?」
  • なぜダメなのか: 人間、特に傷ついている子どもは、恐怖や不安をエネルギーにして動くことはできません。不安を煽られれば煽られるほど、子どもは「自分にはもう未来がないんだ」と無力感を強め、さらに深く部屋の殻にこもってしまいます。

「こうすれば変われる」という正解を押し付ける

  • NG例:「不登校から立ち直った〇〇君のブログ、読んでみたら?」「このカウンセリングに行けば、絶対に心が楽になるから行こう」
  • なぜダメなのか: 繰り返しになりますが、彼らは「自分で納得して選んだこと」しか受け入れられません。親から与えられた解決策は、たとえそれがどんなに優れたものであっても、「コントロールされようとしている」という警戒心を生み、強い反発を招きます。

他の子どもと比較する

  • NG例:「お兄ちゃんは同じ時期に頑張って乗り越えたよ」「同級生の〇〇ちゃんは、もう塾に通い始めたらしいよ」
  • なぜダメなのか: 比較は子どもの自尊心を最も深く傷つけます。「親はありのままの自分を見てくれていない」「他人の目を気にしているんだ」と、親への不信感を植え付ける結果になります。

⭕ 効果が出やすい「OKな接し方・アドバイス」

本人の「独自の分析」を徹底的に尊重する

  • OK例:「そっか、教室のあのざわざわした空間にいると、頭のエネルギーが全部切れちゃうような感覚なんだね」「意味のない雑談をするのが苦痛だっていうあなたの分析、すごく的を射ていると思うよ」
  • なぜ効果的なのか: 特性のある子は、自分の状態を理屈で分析しようとします。親が「そんなのワガママだ」と否定せず、「あなたのその分析は正しい、よく自分のことが見えているね」と認めることで、子どもは強い安心感(自己肯定感)を得ます。親が自分の理解者だと分かれば、頑なだった心が少しずつ開き始めます。

常に「選択肢」を提示し、決定権を子どもに委ねる

  • OK例:「今、勉強の遅れが気になっているなら、家でできるオンライン教材を使う方法と、家庭教師を頼む方法、あるいは今は何もしないで休む方法があるけど、どれが一番しっくりきそう?」
  • なぜ効果的なのか: 「〜しなさい」という命令ではなく、「こういう選択肢があるよ」とフラットに情報を提示されると、子どもは自分のペースでじっくり吟味することができます。自分で納得して「これならやってもいいかも」と選んだことであれば、驚くほどの行動力を発揮します。

「今はそう感じるんだね」と、ただ事実を受容する

  • OK例:「今は学校のことを考えるだけで吐き気がしちゃうんだね。無理もないよ、それだけ頑張ってきたんだもんね。今はゆっくり休もう」
  • なぜ効果的なのか: 親に自分のネガティブな感情(拒絶、恐怖、怒り)をそのまま受け止めてもらえると、子どもは「ありのままの自分でここにいていいんだ」という心理的安全性を確保できます。この安全基地があって初めて、子どもの心にエネルギーが溜まり始めます。

本人が没頭している「興味・関心」を絶対に否定しない

  • OK例:「そのゲームの何がそんなに面白いの?お母さん(お父さん)にも教えて」「そこまで寝食を忘れてプログラミングに熱中できるのって、本当にすごい才能だと思うよ」
  • なぜ効果的なのか: 親から見れば「ただの現実逃避のゲームやネット」に見えるかもしれません。しかし、特性を持つ子にとって、それは荒れ狂う嵐から身を守るためのシェルターであり、自己表現の場です。その世界を親が肯定し、一緒に面白がってくれることは、子どもにとって何よりの救いになります。その没頭した経験が、将来のキャリアに直結することも少なくありません。

時間をかけて「自分なりの適応」を作っていった親子の具体的事例

ここで、実際に「こだわりが強い」「発達の特性があるかもしれない」と悩み、不登校になった子どもたちが、どのようにして自分なりのペースで成長し、社会への適応を見つけていったのか、3つのリアルな事例をご紹介します。

【事例1】私の息子のケース:親が「口出し」をやめたことで始まった内面の成長

私の息子は、中学校2年生の秋から完全に不登校になり、自室にこもるようになりました。
彼は非常にプライドが高く、理屈っぽく、「メリットがないことはやりたくない」と公言するような子でした。私は心の中で「この子は地頭が良いから、いつか自分で気づいて、急に猛勉強を始めて進学校に行くに違いない」などと、淡い期待(親の執着)を抱いていました。そのため、ことあるごとに「この本読んでみたら?」「これからはITの時代だから、こういう勉強はどう?」と、遠回しにコントロールしようとするアドバイスを送り続けていたのです。

しかし、息子はどんどん無気力になり、顔つきも暗くなっていきました。
ある日、私は専門家から「お母さん、息子さんは能力が高いからこそ、お母さんの『期待という名のコントロール』に気づいて、絶望しているんですよ。一切のアドバイスをやめて、ただの同居人として楽しく過ごしてください」と言われ、雷に打たれたような衝撃を受けました。

そこから私は、学校や将来の話、アドバイスを一切やめました。ただ「ご飯できたよ」「今日の唐揚げ、美味しくできたから食べてね」と、日常の心地よさだけを提供するようにしたのです。

すると、半年ほど経った頃から、息子の中に変化が現れました。
自分の部屋から出てきて、リビングでボソッと「俺さ、中2の学校行けなくなった最初の頃、精神的にちょっと病んでたわ。あのときは脳がバグってたんだと思う」と、自分自身の過去を冷静に自己分析して語り始めたのです。親が何も言わなくなったことで、自分の頭で考えるスペースができたようでした。

その後、彼は自分の外見が気になり始めたのか、メンズ美容や筋トレ、運動に強い興味を示すようになりました。これも親の勧めではなく、本人が「かっこよくなりたい」と納得して始めたことです。
そしてある日、「通信制の高校で見学に行ってみたいところがある。週2日くらいなら、学校っていう場所に行ってみてもいいかもしれない」と、自分から言い出しました。

外から見れば、ただ部屋でゴロゴロしていた期間が長かったように見えますが、息子の内面では、確実に「自己理解」と「精神の成熟」という大きな内面の成長が起きていたのです。親が正論で引っ張り上げようとするのをやめ、本人のタイミングを待ったからこそ、自分でエンジンをかけることができた事例です。

【事例2】中3男子・A君のケース:ゲームへの「過集中」からプログラミングの世界へ

A君は、小学校高学年の頃から音や光に対する感覚過敏が強く、中学校に入るとクラスの騒がしさに耐えられなくなり、行き渋りを経て完全不登校になりました。
A君の父親は厳格な人で、最初は「甘えるな!男なら我慢しろ!」と学校へ無理やり連れて行こうとしましたが、A君は過呼吸を起こして激しくパニックになり、父親を完全に拒絶するようになってしまいました。

母親は「これ以上、この子を追い詰めてはいけない」と意を決し、父親を説得。学校へ戻すことを完全に諦め、「今はエネルギーを回復させる時期」と割り切って、A君が大好きだったオンラインゲームを24時間、好きなだけやらせることにしました。

A君は最初の数ヶ月、狂ったようにゲームに没頭(過集中)していましたが、ある時期から「このゲームの裏側の仕組み(システム)って、どうなってるんだろう?」と言い始めました。母親はすぐに、本人が興味を示したプログラミングの初心者用教材とパソコンを買い与えました。

ここから、A君の特性である「興味のあることへの異常な没頭力」が爆発します。彼は独学でプログラミング言語を学び始め、やがて10代が集まるオンラインのプログラミングコミュニティに参加するようになりました。
そこでA君は、「学校の同級生とは雑談が全く合わなくて苦痛だったけれど、ここでは技術の理屈で会話ができるから、すごく居心地が良い」ということに気づいたのです。学校という場所では「困りごと」でしかなかった彼の過集中とこだわりが、オンラインコミュニティという適切な環境(左利きに優しい世界)に出会ったことで、最大の「強み」へと反転しました。

現在、A君は通信制高校のITコースに在籍しながら、すでに個人で簡単なWebサイト制作の案件を請け負うほどのスキルを身につけています。彼独自の「適応の形」を完全に見つけた事例です。

【事例3】高1女子・Bさんのケース:「0か100か」の白黒思考を手放し、グレーを受け入れるまで

Bさんは、非常に真面目で完璧主義、いわゆる「白黒思考」が強い女の子でした。
高校1年生の1学期、体調不良で数日間学校を休んでしまった際、「ノートの提出が遅れたから、もう私の内申点はゼロだ。私の人生は終わった」と思い込み、そこからパッタリと学校に行けなくなってしまいました。

親御さんは、彼女の「一度の失敗ですべてを投げ出してしまう極端さ」を心配し、心理カウンセラーに相談しました。カウンセラーからは、「彼女に『そんなことないよ』と正論で説得しても無駄です。彼女の世界は今、白か黒しかない。まずは親御さんが『白じゃなくても、黒じゃなくても、この世界は生きていけるんだよ』というグレーの心地よさを見せてあげてください」とアドバイスされました。

それから親御さんは、家の中で「あ、お母さん今日、カレー焦がしちゃった!まあいっか、ちょっと苦いけど食べられるよね」「予定してたドライブ、雨で中止になっちゃったから、家でみんなでダラダラ映画見ようか」というように、「完璧じゃなくても、予定通りにいかなくても、なんとかなるし楽しい」という姿を意識して見せ続けました。

心が少しずつふやけて、エネルギーが戻ってきたBさんは、高校2年の春、本人の希望で近所の小さな古本屋で週に2日だけ、短時間のアルバイトを始めました。そこの店主の老夫婦は、とても大らかで、「シフトに5分遅れても、笑顔で『いいよいいよ、気にせんで』と言ってくれる」「本が少し汚れていても、それはそれで味があるねと笑っている」ような人たちでした。

学校という「きっちりした評価社会」しか知らなかったBさんにとって、その古本屋の「曖昧で、グレーで、不完全なものが許される世界」は、衝撃的であると同時に、救いそのものでした。
社会経験を通じて、「100点じゃなくても、70点でも50点でも、社会の中で笑って生きていけるんだ」という認知の変化が起こり、彼女の生きづらさはみるみる解消されていきました。現在は、自分のペースを大切にしながら、定時制高校へ楽しく通っています。


まとめ:診断名は地図にすぎない。今、ここから親ができること

3つの事例を見ていただいて分かるように、子どもたちが生きやすさを獲得していくプロセスには、ある共通した公式があります。それは、「親が子どもをコントロールする(変えようとする)のを手放したとき、子ども自身の内なる成長の時計が動き出す」ということです。

お子さんが不登校になり、さらに「こだわりが強い」「空気が読めない」といった発達の特性を目の当たりにすると、親としてはどうしても焦ります。「この子の特性を今のうちに叩き直さないと、大人になってから社会で通用しない、生きていけない」と、恐怖に突き動かされてしまうのですね。

あるいは逆に、「この子は本当は天才肌だから、いつか何かの分野で覚醒して、大成功を収めるはずだ」と、極端な期待を寄せることで、現在の苦しい現実から目を背けたくなることもあるかもしれません。

そのどちらの親心も、私は痛いほどよく分かります。すべては、我が子を愛しているからこそ、その未来を案じているからこその感情です。

しかし、どうか忘れないでください。
子どもが覚醒するのも、成長するのも、適応するのも、すべて「本人のタイミング」であり、「本人が心から納得したとき」だけです。
親が後ろから無理やり背中を押して歩かせようとしたり、レールを敷いてそこを走らせようとしたりしても、特性の強い子どもは、そのレールを全力で拒絶するか、あるいは車輪を壊して止まってしまいます。

今、あなたのお子さんは、学校に行かず、部屋でただ時間を潰しているように見えるかもしれません。
しかし、それは決して無駄な時間ではありません。彼らは彼らの心の中で、生まれ持った自分の「特性」と、学校という「社会」とのギャップに傷つき、その傷を必死に癒やしながら、「自分はどうやって生きていけばいいのだろう」と、嵐が過ぎ去るのをじっと待っている、神聖な充電の期間なのです。外からは見えなくても、内面の地殻変動は必ず起きています。

親ができる最高のサポートは、子どもを別人に「改造」することではありません。
子どもの今の苦しみに寄り添い、「あなたはあなたのままで、ここにいていいんだよ」という絶対的な安心基地(ホーム)を家庭の中に作ること。そして、子どもが自分で「こういう方法ならできるかも」と納得して動き出すその日まで、じっと信じて待つことです。

最後に、今、この文章を読んでいるあなたへ、心からのエールを送ります。

子どもの痛みを自分のことのように抱え込み、毎日毎日、どうすればいいか悩み続けているあなたは、本当に愛情深く、一生懸命我が子と向き合っている素晴らしい親御さんです。自分を責める必要なんて、1ミリもありません。

ただ、子どものことで頭がいっぱいになって、あなた自身の人生がボロボロになっていませんか?
親の笑顔は、子どもにとって何よりの特効薬です。親が深刻な顔をして悩んでいると、子どもは「自分のせいで親を不幸にしている」と、さらに罪悪感を深めてしまいます。

ですから、今日から少しだけ、子どもの問題と自分の人生を切り離してみませんか。
子どもが部屋にこもっている間、あなたはあなたのために、美味しいコーヒーを淹れて飲む。読みたかった小説を読む。好きなドラマを見てゲラゲラ笑う。友達と愚痴を言い合う。そんな風に、親御さん自身が自分の人生の喜びを取り戻し、エネルギーを満たしていくことこそが、巡り巡って、子どもを救う一番の近道になるのです。

「ASDかどうか」「一生治らないのか」という未来の不安に引っ張られそうになったら、「まあ、今、この子は家で安全に生きてるから、それで満点!」と、今日1日を無事に終えられたことをお互いに褒め合いましょう。

不登校の親の保健室は、いつでもあなたの味方です。あなたが肩の力を抜いて、我が子とともに、自分らしい笑顔を取り戻せる日を、心から応援しています。いつでも、ここに一休みしにきてくださいね。

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