どう接していいか分からないと悩む親御さんへ
「中学生のころ不登校になり、発達障害(ASD)がわかった」
「高校生になっても反抗期が続き、親の言うことをまったく聞いてくれない」
「『将来働かない』『外に出たくない』と言い出し、この先どうなるのか不安……」
思春期という多感な時期に、不登校や発達障害の発覚が重なると、親御さんは「どう接するのが正解なのか」と深く悩まれることと思います。良かれと思ってかけた言葉が反発を生み、親子関係が悪化してしまうケースも少なくありません。
この記事では、ある実際のご相談事例をもとに、**「ペアレントトレーニング」**という考え方を取り入れた具体的な接し方のアドバイスをご紹介します。
ペアレントトレーニングを知らない方でもすぐに実践できるよう、「なぜ子どもはそのような態度をとるのか」という心理の読み解き方から、「親がどう言葉をかければよいのか」という具体的なアクションまでを詳しく解説します。
今回のご相談事例「通信制に転校したいけど、勉強していない高1生」
まずは、今回参考にする事例を整理しましょう。あなたのお子さんと重なる部分があるかもしれません。
【お子さんの状況】
- 年齢・時期: 現在高校1年生(思春期・反抗期の真っ只中)
- 経緯: 中学時代に不登校を経て、発達障害(ASD:自閉スペクトラム症)であることが発覚。
- 本人の訴え: 「教室にいるといろんな人の感情が気になって無理」と過敏さを感じている。過去には「将来働かない」「外に出たくない」という発言もあった。
- 現状の進路: 高校へ進学し5日ほど登校を試みたが、やはり教室の雰囲気が合わず断念。現在は「通信制高校への転校を予定しており、そちらで頑張りたい」という前向きな意思がある。
- 学習状況: 中学2年生のころから約2年間、勉強から離れており学習の遅れがある。
- 心理検査の結果(WISC等): 「作業速度」の項目以外は、平均値以上のスコアが出ている。
【親御さんの悩み】
「通信制高校に転校して頑張りたいとは言っているものの、中2から全く勉強していない。この状況で、親としてどうアドバイス(声かけ)をしたら良いのだろうか?」
この事例には、思春期・ASD・不登校・高校での挫折と再出発という複合的な課題が含まれています。次の章から、この状況を紐解いていきましょう。
「言葉通り」に受け取らない。ASDと思春期の子どもの心理
ペアレントトレーニングの第一歩は、「子どもの行動や言葉を、親のフィルターだけで判断しないこと」です。
特にASDの特性を持つ子どもは、自分の複雑な感情や困難さを適切な言葉で表現するのが苦手です。彼らの言葉の裏にある「本当の気持ち」と「特性」を理解しましょう。
「将来働かない、外に出たくない」の本当の意味
この言葉を額面通りに受け取ると「怠けたいのか」「親に頼る気か」と怒りたくなりますが、実はこれは**「見通しが立たない不安」と「自信の喪失」の表れ**であることが多いのです。
ASDの特性として、「自分が将来どうなるか」という漠然としたイメージを描くのが非常に苦手です。さらに、中学での不登校や、せっかく進学した高校で「5日で通えなくなってしまった」という挫折体験から、自己肯定感がどん底に落ちています。「どうせ自分なんてダメだ」「また失敗して傷つくくらいなら、最初から何もしない(働かない・出ない)ほうがマシだ」という、彼らなりの自己防衛の言葉なのです。
「他人の感情が気になって無理」という感覚過敏
「教室の雰囲気が無理」というのは、決してわがままや逃げではありません。ASDやHSP(ひといちばい敏感な人)の傾向がある子にとって、全日制の教室は「情報過多なパニックルーム」になり得ます。
他人のイライラした空気、怒られているクラスメイトの声、雑音、視覚的な刺激。これらをスポンジのように全て吸収してしまい、脳の処理キャパシティを超えてしまうのです。「学校に行けない」のではなく、「その環境にいると心身が危険だから、本能的に避難した」と捉えるのが正解です。
「通信制高校で頑張りたい」という希望の光
ここが今回の事例における最大のポイントです。「働かない」と言っていた子が、高校での挫折を経てなお「通信制で頑張りたい」と言えた。これは、心の中で葛藤した末に出した、とてつもなく前向きなサインです。
全日制の「集団で同じペースで動く」という環境が合わなかっただけで、「学ぶ意欲」や「前に進みたい気持ち」はしっかりと残っています。 心理検査でも理解力(作業速度以外)は高いのですから、自分のペースで学べる通信制への転校という選択は、お子さんにとって非常に理にかなった素晴らしい決断です。
心理検査「作業速度以外は平均以上」が意味すること
心理検査(おそらくWISC-IVやVなど)の結果は、関わり方の大きなヒントになります。
「理解力や思考力は高い(平均以上)」一方で、「作業速度が低い(ゆっくり)」というアンバランスさ(凸凹)を持っています。
これが何を意味するかというと、**「頭ではよく分かっているのに、実際に行動に移したり、処理したりするのにものすごく時間がかかる」**ということです。
こういうタイプの子に「早くしなさい」「まだ終わってないの?」と急かすのは絶対にNGです。本人は焦っているのに手が追いつかないため、パニックになったり、やる気を完全に失ったりしてしまいます。
親の関わり方を変える「ペアレントトレーニング」3つの基本
子どもの心理が見えてきたところで、いよいよ親の対応を変えていく「ペアレントトレーニング」の基本をお伝えします。
ペアレントトレーニングの目的は、子どもを親の思い通りにコントロールすることではありません。親が効果的な接し方を学ぶことで、親子の悪循環を断ち切り、子どもが持っている本来の力を引き出すことです。
子どもの行動を「3つ」に分けて対応を変える
子どものあらゆる行動を、以下の3種類に分類し、親のリアクションを変えます。
- 好ましい行動(増やしたい行動)
- 例:起きてきた、ご飯を食べた、「通信に転校したい」と言えた、転校の手続きについて話せた。
- 【対応】すぐに、具体的に褒める・認める(肯定的な注目)
- 好ましくない行動(減らしたい行動)
- 例:暴言、屁理屈、文句を言う、勉強しない、昼夜逆転している。
- 【対応】徹底的にスルーする(注目を与えない・無反応を貫く)
- ※親が怒ったり言い返したりすると、子どもは「親が構ってくれた」と勘違いし、その行動がエスカレートします。
- 危険な行動(絶対に許されない行動)
- 例:他害、自傷、物を壊す。
- 【対応】毅然とした態度で止め、事前の約束に基づいたペナルティを与える。
「できている25%」に注目する(肯定的な注目)
親はつい「中2から勉強していない(できていない100%)」にばかり目が行きますが、それでは子どもは自信を失う一方です。
ペアトレでは、「少しでもできているところ(25%でも)」を見つけて注目します。
高校生の年齢の子を大げさに褒めると「子ども扱いするな」と反発されることがあるため、**「実況中継(アイメッセージ)」**が効果的です。
「すごいね!」ではなく、「あ、起きてきたね」「お皿を下げてくれたんだね」「通信制のパンフレット、見てたんだね」と、事実だけをフラットに伝えることで、「お母さん(お父さん)は、あなたの良いところをちゃんと見ているよ」というメッセージが伝わります。
伝わる指示出し「CCQ」とスモールステップ
作業速度がゆっくりなASDの子に、口頭で長々と説教をしたり、一度にたくさんの指示を出したりしても、頭を通り抜けるだけです。指示を出す時は**「CCQ」**を意識します。
- C(Calm):穏やかに(感情的にならない)
- C(Close):近づいて(遠くから怒鳴らない、視界に入る)
- Q(Quiet):静かな声で(過敏な子に大きな声は苦痛)
また、指示は**「極限までのスモールステップ」**にします。
「遅れを取り戻すために勉強しなさい」はハードルが高すぎます。「机の前に座ろう」「まずは転校先のシラバス(計画表)を一緒に眺めてみよう」といった、必ず達成できるレベルまで分解して提案します。
【実践編】通信制への転校に向けて、どうアドバイスするべきか?
では、今回の最大の悩みである「中2から約2年間勉強していない高1生への、通信制転校に向けたアドバイス」について、NG対応とペアトレ的OK対応を比較してみましょう。
❌ ありがちなNG対応:正論で追い詰めてしまう
親のNG発言例:
「通信制に転校するって自分で決めたんだから、そろそろ勉強始めたらどうなの?中2から全然やってないんだから、今からやらないと転校してからレポートがこなせなくて、また苦労するのはあなただよ。将来困りたくないでしょ?」
【なぜダメなのか?】
- 「正論」は反発を生む: 約2年間の勉強の遅れがあることは、理解力の高い本人が一番痛感し、不安に思っています。そこを親に指摘されると、図星だからこそ猛烈に反発するか、「どうせ無理だ」と心を閉ざします。
- 不安で動機付けようとしている: 「また苦労するよ」「将来困るよ」というネガティブな予測は、過去の失敗体験(高校中退の危機など)を引き起こし、不安の強いASDの子には猛毒です。思考停止(フリーズ)を引き起こし、余計に動けなくなります。
⭕️ ペアトレ的OK対応:意思の承認とスモールステップの提案
親のOK発言例:
「通信制に転校して自分のペースでやり直したいって決断できたこと、お母さんすごく嬉しいし、応援してるよ。勉強のことで不安なところはあるかな? もしよかったら、一緒に通信制のレポートの進め方を確認してみる? それとも、今日は中学の時の好きな科目の教科書をパラパラ見るだけにする?」
【なぜ良いのか?】
- 行動の承認(基本1・2): まず「通信制で頑張るという大きな決断(好ましい行動)」を全面的に肯定し、安心感を与えています。挫折後のこの決断は、本当に勇気がいることです。
- 提案と選択肢(CCQ): 「勉強しろ」という命令ではなく、「どうサポートしようか?」という味方のスタンスです。そして「資料を見るか」「教科書をパラパラ見るか」という、非常に低いハードル(スモールステップ)の選択肢を与え、本人に選ばせています。
「作業速度」がゆっくりの子への学習環境サポート術
心理検査で「作業速度」が弱点だと分かっている場合、「2年分の遅れを早く取り戻させよう」と詰め込むのは絶対に避けましょう。親がすべきアドバイス(サポート)は以下の通りです。
- 「教える」のではなく「環境を整える」:感覚過敏があるため、静かで落ち着ける学習スペースを作ります。また、情報処理がゆっくりなので、文字がびっしり詰まった参考書ではなく、視覚的にスッキリした教材を一緒に探すのが良いでしょう。
- スケジュールを「視覚化」する:通信制高校は自己管理が求められます。口頭で「あれやって」と言うのではなく、ホワイトボードやメモ、あるいはLINEなどを使って、今日やるべきこと(ごく少量)を視覚的に提示すると、本人が自分のペースで処理しやすくなります。
- 転校先への「配慮の相談」:転校(編入)の手続きの際に、心理検査の結果(作業速度が遅いこと、感覚過敏があること)を高校側に共有しておきましょう。レポートの提出期限に幅を持たせてもらう、スクーリング時の座席を配慮してもらうなど、環境側を調整することが、最大のサポートになります。
親御さん自身も、自分を褒めてあげてください
中学での不登校、発達障害の発覚、高校進学への期待と5日での挫折……。親御さんはこれまで、どれほど悩み、涙し、孤独な葛藤を抱えながらお子さんと向き合ってこられたことでしょう。
まずは、今日まで決して逃げずにお子さんを支え続けてこられた親御さんご自身を、思い切り労ってあげてください。
ペアレントトレーニングは、「親が完璧になるための修行」ではありません。
親御さん自身が「より楽に、肩の力を抜いて」子どもと関わるための技術であり、視点の切り替えです。
お子さんは辛い経験を乗り越え、「通信制で頑張りたい」という、素晴らしい一歩を踏み出しました。
理解力は十分にあるお子さんです。親御さんが焦らず、「できているところ」にスポットライトを当て続けることで、お子さんは必ず自分のペースで、自分らしい道を歩き始めます。
100点満点の親を目指す必要はありません。昨日よりほんの少しだけ、「怒る」のを我慢して「見守る(スルーする)」ことができたら、ご自身に大きな花丸をあげてくださいね。通信制高校での新しいスタートを、心から応援しています。


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